地球上の土地は、基本的にはどこかの国が領有をしています。
時に複数の国の間で領有権の主張が重複し、領土問題に発展することがあります。
通常は土地の取り合いが発端となって起こる領土問題ですが、世界には土地を押し付け合う珍しい形の領土問題が存在します。
そしてその結果、どの国も権利を主張しない「無主地」となってしまった土地があります。
今回は、領土問題の結果として無主地となってしまったビル・タウィールについて徹底解説します!
ビル・タウィールとは?
ビル・タウィールは、アフリカ大陸の内陸に位置する無主地です。
エジプトとスーダンの国境地帯にあり、四角形をしています。
大きさは約2000平方キロメートルで大阪府と同じくらいの大きさです。
ビル・タウィールが無主地となった経緯
ビル・タウィールが無主地となった経緯を理解するには、エジプトとスーダンの歴史から紐解く必要があります。
かつてエジプトとスーダンはイギリスが支配しており、ビル・タウィールも支配エリア内に存在していました。
イギリスは、19世紀末から20世紀初頭にかけて両国間の国境を策定することとしました。
当初は北緯22度線上にまっすぐな国境線を設けましたが、遊牧民の土地利用の実態を踏まえ、3年後に一部を蛇行するような国境線に変更しました。
ここで、内陸の四角形のエリアであるビル・タウィール(地図上黄エリア)と紅海に面した三角形のエリアであるハライブ・トライアングル(地図上青エリア)が国境線変更前後の差分として登場します。
エジプト側から見ると、国境線が変更されたことでビル・タウィールが自国の領土となる一方、ハライブ・トライアングルをスーダンに組み込まれてしまいます。
ハライブ・トライアングルはビル・タウィールより広大かつ油田があることから、エジプトは「当初のまっすぐな国境線が正しい」と主張することとなります。
一方スーダン側はハライブ・トライアングルが自領土となることから「変更後の国境線が正しい」と主張します。
国際法によると、二つの国が二つの土地の領有権を争う場合、片方の国が二つとも領有することはできないとされています。
つまり、両国とも国際法に則り「ビル・タウィールをあげる代わりにハライブ・トライアングルが欲しい」と主張しているため、ビル・タウィールはどの国も領有しない無主地となってしまったのです。
ビル・タウィールを巡る出来事
特異な歴史で現在は無主地となっているビル・タウィールを巡り、過去には様々なことが起こりました。
ここでは世界を賑わせた出来事を2つ紹介します。
ハライブ・トライアングルにおけるエジプトの実効支配
1992年、スーダンがハライブ・トライアングルでの石油利権をエジプトに無許可で外国企業に与えてしまいました。
これに怒ったエジプトが軍を出動させ、この地を実効支配するに至りました。
両国ともビル・タウィールを相手に押し付けてハライブ・トライアングルを領有するために躍起になっていることが良くわかる事件でした。
アメリカ人による王国樹立
2014年、アメリカ在住のジェレマイア・ヒートンさんがビル・タウィールに旗を立て「北スーダン王国」の樹立を宣言しました。
ジェレマイアさんは、娘のエミリーちゃんが数か月前に「お姫様になりたい」と話したことを受け、7歳の誕生日にその夢を実現させるために自身の王国を樹立したのです。
専門家によると、実効性のある占有状態を確立しなければ国として認められることは難しいと語っており、旗だけでは王国樹立の法的根拠は乏しいとしているようです。
ただし、エミリーちゃんは学校で友達に羨ましがられるなど栄誉を手に入れられたようで、お姫様になりたいという夢は幾ばくか叶ったとも言えます。
まとめ
今回は、領土問題の結果として無主地となってしまったビル・タウィールについて解説しました。
特異な歴史を持つビル・タウィールでは、国家間の争点としてはもちろん、自身の国の樹立を狙う人が現れたりと、多くの人が注目する土地であることがお分かりいただけたかと思います。
また、ビル・タウィールにまつわる領土問題を考察することで、日本も抱える領土問題が前進する可能性があると思います。
決して遠い国の出来事と思わず、自分や世界がより良いものにするものとして思考を巡らせてみて下さい。
参考文献
国土地理院:https://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/MENCHO/backnumber/R4_7_sanko.pdf
ダイヤモンドオンライン:https://diamond.jp/articles/-/270341
AFPBB News:https://www.afpbb.com/articles/-/3021362